第36章

彼は直に高橋遥の目の中で希望が瞬く間に消え去るのを見た。彼女の表情は絶望に近く、無力感、そして崩壊さえ感じられた。

最終的に彼女はただぼんやりと頭を回し、夜空に咲き乱れる花火を見つめるだけで、もう一言も発しなかった。

病室の中では花火が開く音だけが響いていた。稲垣栄作は意地悪な口調で、ベッドの端に座り彼女を抱き寄せ、彼女の香る肩に顎を乗せ、そっと囁いた。「松本先輩の花火、綺麗かい?」

高橋遥はただ黙って俯くだけで、もはや何事も彼女の心を動かすことはできないかのようだった。

彼女の瞳の光が消えていた。

稲垣栄作は後ろから彼女を抱きしめ、まるで取引をするかのような冷たい声で言った。「高...

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